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自己責任で。

小さな話をタレ流す雑記ブログ

うつを理由に解雇された社員が裁判で勝訴〜東芝に6千万円の賠償命令が下されたことの意味

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もと東芝の技術者である重光由美さんが訴えた不当解雇の裁判に、一応の決着がついたようです。8月31日、東京高裁が賠償金6千万円の支払いを命じたと報じられました。
 
私は恥ずかしながら事件について詳しく知らなかったのですが、調べたところWikipediaにも『東芝の労働事件』として掲載されていました。『東芝うつ病事件』という見出しがそれです。
 
この判決は、日本国内の労働者や企業にとっても大きな意味を持っているようです。これについて少し調べてみました。

 

事件の流れ

 
原告の重光由美さんは、2001年の秋にうつ病と診断され休職を余儀なくされました。その3年後には休職期間満了となり会社(東芝)を解雇されています。
 
これに対して重光さんが労災を申請し、不当な解雇であることを主張。2008年には解雇を無効とする判決が出て、かつ2009年には国からも労災が認定されました。
 
しかし東芝は和解交渉に応じないどころか即日控訴し、国が認定した労災すら認めないという徹底した構えで裁判を長引かせています。
 
こうして実に12年間にわたり裁判で争うことになる、というのが一連の流れです。
 
文章にしてしまうとすごく端的ですが、この間も重光さんはずっと闘病生活を続けています。ご自身のブログでも綴っているように、裁判の成り行き次第で体調にも影響が出ていた由。
 
想像をはるかに超える、苦難に満ちた道のりだったことでしょう。
 
 

世間が注目した裁判

 
うつ病を理由に不当な解雇を訴えた事件は過去にもありましたが、今回これほど大きく報じられているのはなぜでしょうか。
 
まず今回の賠償金が6千万円と非常に大きな金額であったこと、かつ患者本人が訴えているという点が注目すべき点でしょう。通常これほど大きな金額になるのは、自殺に追い込まれた場合に遺族が訴えるケースです。
 
不当解雇を理由に、本人が直接訴えた例としては突出した額だと言えます。これは訴えに対して会社が徹底抗戦の構えを見せたために、裁判が長期に及んだことが原因です。
 
ご本人のブログや一部メディアでも報じられていますが、会社ぐるみの妨害や嫌がらせといった行為が事態を悪化させ、これがメディアの報道も相まって世論を味方につけて次第に大きくなったようです。
 
東芝という大企業において、皮肉にも同じ職場から2名の自殺者が出ていたことも露呈。前述のような会社側の強固な姿勢もあり、労働審判ではなく訴訟として争われました。
 
 

東芝の姿勢が事態を悪化させた

 
先に少し触れたように、今回の一件では会社からの嫌がらせや妨害があったようです。
 
労災申請のために業務資料を収集することを妨害されたり、会社との交渉中に解雇通知を送られたり、裁判では本人の見覚えがないタイムカードが会社から提出されたともブログに記されていました。
 
もはや嫌がらせという次元ではありませんね。これが本当ならかなり悪質です。
 
また組合との交渉も難航を極めたようで、ご自身のブログでも「組合の存在する意味は何なのでしょうか」と記されていました。
 
これらは原告側の主張ですから、偏りがあることも承知しています。しかし読めば読むほど苦難の道のりであったことは想像に難くありません。
 
 
 

産業医の存在意義

 
様々な資料を読んでいく中で、私が首を捻(ひね)ったのは『産業医』の立ち位置です。
 
東芝産業医による意見陳述書もネット上で確認することが出来ましたが、とても驚きました。原告に対し、あまりにも攻撃的な内容だったからです。
 
まず東芝側のメンタルヘルス対策がいかに優れているかをくどいばかりに主張し、そしてうつ病が業務に起因していないこと、さらには長期間治らないのはおかしいと言わんばかりの説明が専門的に延々と書かれてありました。
 
そして追い討ちをかけるかのように主治医の診察内容にまで疑問を提起し、最終的には産業医へ報告がなかった本人の落ち度を指摘するようなことまで暗に記されていたのです。
 
これは明らかに会社側にとって都合の良い意見書であり、従業員の安全と健康に配慮すべき『産業医』の立場で書かれたものとは思えません。
 
なぜなら、これが提出された翌年(2011年)の判決では、重光さんから会社への報告がなかったとして損害額の2割が減額されているのです。これは明らかに裁判を有利に導くための意見書であり、産業医としての立場を逸したものであると考えられます。
 
どのようなやり取りの元で提出されたのかは不明ですが、産業医の存在意義をも考える必要があるのではないでしょうか。
 
 

長い年月がかかったからこその勝利

 
失礼を承知で申し上げるならば、今回の勝訴は長い年月を最後まで戦い抜いてこられたからこそとも感じられます。
 
これもご自身のブログで述べられていたのですが、重光さんが休職した当時はうつ病に対する世間の見方も厳しいものであったようです。うつ病は本人の甘えであるという考えが根強く、誹謗中傷も少なからずあったことでしょう。
 
しかしその後『ブラック企業』という言葉が表面化し、さらには『メンタルヘルス』という考え方も今では定着しています。そう考えると、うつ病が社会に受け入れられるようになってから、わずか10年ほどしか経っていないのですね。
 
長い年月とともにうつ病に対する世間の受け止め方も徐々に変化し、報道によって世論を味方につけたことも勝訴へと導いたのではないでしょうか。
 
その証拠に、2006年には『重光由美さん支える会』という有志団体も発足しています。以後10年以上にわたり原告を支えながら、職場環境改善を社会へ問う活動をされているのです。
 
そして今回の裁判の経緯です。2011年の高裁判決では解雇無効が確定したものの、重光さんが発症の事実を会社へ申告していなかったことを理由に賠償額を2割減額されていました。
 
しかし2014年には改めて全面勝訴。賠償額については最高裁から審理のやり直しが命じられ、今回の判決へと至ったのです。
 
重光さんご本人は判決内容について当然としながらも、時代の移ろいとともに有利に働いていったことは明らかです。
 
 

企業のあり方を問う判例となるか

 
一連の記事を読み漁り、改めて昨今の労働環境に対して考えさせられました。
 
病気を患った従業員に対して会社が取るべき行動は、速やかに職場へ復帰出来るよう手助けすることであり、そのための安全配慮義務であるはず。
 
それを取り巻く労働基準監督署労働組合産業医など々々、いかに『お仕着せ』な存在であるかを世に問う裁判であったのではないでしょうか。
 
裁判の結果だけを鑑みればひとまず胸を撫で下ろすべき状況でしょうが、当の重光さんご本人にとっての15年間はそれで報われるとは到底思えません。
 
願わくばこの判例が、企業と労働者のあり方を変える礎(いしずえ)となりますように。そして何より、重光さんご本人が安心して治療に専念される日が一刻も早く来ることを切に願います。
 
 
 
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